石川県史全五編は、県嘱託日置謙氏の多年にわたる研究調査と努力によって編集完成されたもので、地方史の範たるものとして、当時全国に誇りうるものでありました。特に上古より稿を記し、明治時代に至る各時代の政治経済、産業、教育、文化、風俗、地誌等各部門にわたる詳述は、地方史研究の貴重なる文献資料として高く評価され、広く活用されてきたものであります。 しかるに、この貴重な県史も、発刊後長年月を経過し、かつ、戦後散逸するものも多く、今日入手することは困難な状態にあります。 ところで近年県下市町村史の発刊や、郡誌等の復刊に見られるように、地方史研究への動きは、その基調ともいうべき、本県史に期待するところが大きく、関係者よりこれが復刊を求める声が特に強く叫ばれるようになりました。石川県史復刊の意義は、実にこの要望に応えたものであります。 温古知新という古語がありますが、時あたかも廃藩置県以来一世紀を経過し、新日本海時代へと大躍進をとげんとする石川県にとって大切なことは、今日までの石川県を築きあげられました多くの先人たちの苦労の跡を静かに尋ねることであり、新らしい石川県の歴史は、この上に打ち建てられるべきであると思っております。 この意味で復刊された本書により、石川県の理解が深められ、郷土発展への推進力ともなれば、私の喜びはこれに過ぎるものはありません。 最後に、本県史の復刊にあたり、その復刊委員として、ご努力を賜りました松本三都正、矢ヶ崎孝雄、川良雄、高堀勝喜の各氏に深く感謝するとともに、本書発行の委託をうけ、その事業にあたられた石川県図書館協会に対し心からお礼を申し上げます。 昭和四十九年三月十五日 石川県知事中西陽一