寛永十六年六月前田利常幕府に請ひ、その領地八十萬石を長子光高に讓りて家を襲がしめ、自ら小松城に退老して、新川郡及び能美郡の一部二十二萬二千七百六十石を養老領とし、また之と同時に、次子利次に十萬石、三子利治に七萬石を分かちて支藩たらしめき。世に富山藩及び大聖寺藩と稱せらるゝもの即ち是にして、宗藩は加賀藩と呼ぶを例とせり。富山・大聖寺二藩の領邑は初め一所に集團せず、富山藩は能美郡に二萬石、婦負・新川二郡に八萬石なりしが、萬治三年以降婦負・新川二郡十萬石となり、大聖寺藩は新川郡四千三百餘石の外、江沼郡全部なりしが、また萬治三年新川郡の地を能美郡六ヶ村と交換して、江沼郡と連接の地を有するに至れり。但し江沼郡の中那谷村のみは初め利常の領なりしが、後大聖寺藩領となる。
是より先正保二年四月加賀藩主前田光高卒したるを以て、六月子綱紀その所領を繼ぎしが、更に萬治元年十月祖父利常の薨ずるに及び、十二月二十八日その養老封と、別に利常の將軍秀忠より與へられたる近江の内今津・弘川の二村も亦綱紀の有に歸し、合計百二萬五千石を算することゝなれり。

加賀・能登・越中三ヶ國百二十萬二千七百六十石之内、加州江沼・能美郡之内七萬石、越中婦負郡并新川郡之内十萬石、能州四郡之内一萬石、以上十八萬石除之。殘百二萬二千七百六十石、並近江國高島郡之内兩村（今津・弘川）二千二百六十石餘、都合百二萬五千石餘［目録在別紙］事、如前々宛行之訖。可被致領地之状如件。
寛文四年四月五日家綱在判
加賀中將（前田綱紀）殿
〔越登賀三州志〕
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目録
加賀四郡
加賀郡百七拾三ヶ村、高七萬五千七拾石貳斗。
石川郡貳百貳拾九ヶ村、高拾六萬六千九百四拾五石九斗八升。
能美郡之内貳百三ヶ村、高拾壹萬九百八石六斗九升。
合三拾四萬六千六百貳拾貳石三斗八升七合。
但三郡之内六千三百貳石四斗八升餘（三合）、依爲分限帳之外籠高也。
江沼郡百三拾四ヶ村、並能美郡之内六ヶ村、高七萬石除之。
越中國四郡
射水郡貳百拾八ヶ村、高拾三寓貳百五拾六石四斗四升。
礪波郡四百八拾四ヶ村、高貳拾萬貳千百拾壹石八斗四升。
新川郡之内四百拾八ヶ村、高拾四萬七千五百拾壹石四斗壹升。
合四拾六萬九千七百五拾四石七斗七升三合。
但三郡之内壹萬百貳拾四石九斗餘（壹升七合）、依爲分限帳之外籠高也。
婦負郡百八拾ヶ村、並新川郡之内七拾三ヶ村、合拾萬石除之。
能登國四郡
羽喰郡之内百七拾壹ヶ村、高七萬四千六百三石五斗九升。
能登郡之内百參拾壹ヶ村、高六萬貳千九百三拾五石貳斗五升。
鳳至郡之内貳百貳拾七ヶ村、高四萬七千九百八拾壹石五斗六升。
珠洲郡之内七拾四ヶ村、高貳萬五千九百拾貳石四斗四升。
合貳拾萬六千參百八拾貳石八斗四升。
但四郡之内五千五拾石、依爲分限帳之外籠高也。
羽喰郡之内拾七ヶ村、能登郡之内貳拾ヶ村、鳳至郡之内貳拾壹ヶ村、珠洲郡之内三ヶ村、高合壹萬石除之。
三ヶ國高合百貳拾萬貳千七百六拾石、内拾八萬石除之。
近江國高島郡之内、今津村・弘川村高貳千貳百六拾石貳斗八升壹（貳）合。
都合百貳萬五千貳捨石貳斗八升貳合。
右今般被指上郡村之帳面被相改、及上聞所被成下御判物也。此儀兩人奉行依被仰付、執達如件。
寛文四年四月五日永井伊賀守尚庸
小笠原山城守長頼
松平加賀守（前田綱紀）殿
〔越登賀三州志〕