大夫面目。意氣凜然。摩尼在手。衲衣掛肩。瞞却月上。壓倒華鮮。龜齡鶴算。億萬斯年。 慶長十四己酉稔仲夏下浣前大徳春屋叟宗園暮齡 くもりなき秋のみそらの月かげをこゝろの水にうつしてぞ見る なきあとのかたみまでとやのこすらんむそぢあまりの春のおもかげ 〔大徳寺藏芳春院肖像讃〕 ○ 奉賛芳春院殿壽影 功徳無窮佛閣僧。千門萬戸碧嶒嶒。看々二世安身處。日夜香華不盡燈。 前惣持象山叟書焉 〔總持寺藏芳春院肖像讃〕 利家の薨後に於ける前田・徳川二氏の關係は再び險惡となり、家康が利長を壓迫してその勢力を殺がんとするの状暗暗裏に現れ來れり。蓋し家康より見れば、利長の如きは尚壯年淺慮の人、之を憚ること決して父利家の如くなるを要せずといへども、その提封の巨大なる又尋常一樣の侯伯を以て目すべきにあらず。是を以て彼は徐々に利長を導きて窮地に陷らしめ、遂に頭を俛れて雌伏するの止むを得ざらしめし手段に至りては、彼の常に最も得意とする所を實行せしに過ぎずといへども、亦頗るその巧妙なるに驚かざる能はざるものあり。