かく士人の救濟と待遇とに關する藩の努力は實に大なるものありしも、之によりて遂に徹底せる効果を生むに至らざりき。是を以て加賀藩の士人は他の藩士に比して收人の頗る多かりしに拘らず、尚藩末に至るまで窮乏の域を脱する能はざりしが、これに反して庶民の貧苦に陷り流離せるものを救助する社會政策は、殆ど比類を見ざるまでに能く行はれて、荻生徂徠をしてその著政談に、加賀の國には非人一人もなしと嘆賞せしむるに至れり。