かゝる際に於いて高率を以て金銀を貸附し、以て暴利を貪るものを生ずること亦自然の數なるが、殊にその手段の惡辣なるは檢校・勾當など稱する盲人の輩なりき。彼等はその身體の不具なるのみならず、社會上の地位比較的高きが故に、士庶の濫に暴力を加ふること能はざるを知り、彼等がその官を進むるが爲に蓄積せる資金を一時融通するなりと假稱し、若し期日に至るも辨濟せざるものあるときは、その家に赴きて怒號罵詈を加へ、苟も償還を得ずんば數日を經るも尚去らず。されば世人甚だ之を憎惡せりといへども、尚焦眉の危急を糊塗せんが爲に、高率の利子を豫納したる上、若し辨濟の義務を怠るときは如何なる催促を受くるも辭せざるべしとの意を借用證書に認むるものすらありき。是に於いて市民の資金を有するものも、亦高利を貪らんが爲に之を盲人に提供して運用せしむるものあり。その弊竇頗る甚だしきものありしを以て、明和二年十二月町奉行令を發して彼等の法外なる貸金催促を禁止し、御用番の老臣も亦之に關して家中の士を戒飭する所ありしが、恐らくは到底その目的を貫徹し能はざりしなるべし。 明和二年十二月町奉行より町方へ申渡候由にて、御用番より御家中へも被相觸候趣。 檢校・勾當其外座頭共、官金之由申立、高利に而世上へ貸出、返金滯候節者座頭共大勢指遣、武家方は玄關え相詰罷在、高聲にて雜言申、或は晝夜共詰切能在、彼是我儘成躰に而催促候茂有之由相聞候。勿論借金催促之儀、其依時宜何れ共勝手次第之事候得共、右樣之致方は、借主に耻辱をあたへ候而返金爲致候樣仕事候へば、催促の筋にては無之候。右樣高利に而取引仕故、外々よりも座頭へ金子預、爲貸出候者多在之旨相聞へ候。過分之高利又は法外之催促致候儀付、咎申者も有之候へ共兎角不相止、其上借主心得とは乍申、返金滯ば法外之可致催促旨證文に認置、且利金證文には通例に認させ、實は高利に取引仕、其外禮金と名付、用立候金子之内に而引取、不埒之至に候。玄關等其外催促之者罷越間敷場所へ相詰、雜言法外致間敷、若相背候者は吟味之上急度可申付候。 〔梅花無盡藏〕