然るに藩政の末期に及びて富突再び大に行はれ、これを以て公共の費用を補充する方法として利用せしものあり。石川郡鶴來町及び松任町に行はれたるものは皆是にして、天保以降橋梁の修築・社寺の再興・天變地異による窮民の救濟等の爲に巨資を要する際、藩の免許を得て之を行へり。凡そ富突の抽籤器は密閉したる桶を用ひ、小孔を開き、盲人又は幼童をして錐を器中に入れ、番號を記したる木札を刺して引出さしめ、これを揚り札又は突揚札と稱して當籤を定むるを常としたるが、鶴來町に於いて用ひられたる抽籤器は、稍その進歩せるものにして、桐材厚板を以て六角形の箱を造り、中央に軸を通じて回轉攪拌に便ならしめ、側面の一區に孔を開けり。富突の加入金及び分配金等に就きては、松任講方主附のものに就きてこれを見るに、加入銀は一口八匁五分とし、總數を五千口と定め、その賣渡したる札の裏面には左の規定を印刷せり。 ┏━━━━┯━━━━━┯━━━━━━━┯━━━━━━━━┯━━━━━━┯━━━━━━┯━━━┓ ┃鶴貳│第壹番│錢壹貫目│兩袖五十目ツヽ│印違壹番│銀百圓│┃ ┃千五百枚├─────┼───────┼────────┼──────┼──────┤┃ ┠────┤五番ノ所│銀百目ツヽ│兩袖十五匁ツヽ│印違五番ノ所│銀貳十目ツヽ│┃ ┃龜貳├─────┼───────┼────────┼──────┼──────┤會の前┃ ┃千五百枚│十番ノ所│銀貳百目ツヽ│兩袖貳十目ツヽ│印違十番ノ所│銀三十目ツヽ│日迄に┃ ┠────┼─────┼───────┼────────┼──────┼──────┤加入銀┃ ┃合│第貳十五番│銀五百目│兩袖三十目ツヽ│印違貳十五番│銀五十目│全く入┃ ┃五千枚├─────┼───────┼────────┼──────┼──────┤濟尤紛┃ ┠────┤第五十番│錢貳貫目│兩袖百目ツヽ│印違五十番│銀貳百目│失札落┃ ┃揚リ札├─────┼───────┼────────┼──────┼──────┤札損札┃ ┃百枚│第七十五番│銀五百目│兩袖三十目ツヽ│印違七十五番│銀五十目│斷不承┃ ┠────┤│││││屆候事┃ ┃兩袖├─────┼───────┼────────┼──────┼──────┤┃ ┃貳百枚│第九十八番│銀五十目│兩袖十匁ツヽ│印違九十八番│銀十五匁│鬮當り┃ ┠────┼─────┼───────┼────────┼──────┼──────┤銀開札┃ ┃印違│第九十九番│銀百目│兩袖十五匁ツヽ│印違九十九番│銀貳十目│の後即┃ ┃百枚├─────┼───────┼────────┼──────┼──────┤刻渡┃ ┠────┤間々│銀貳十五匁ツヽ│兩袖八匁五分ツヽ│印違間々│銀十匁ツヽ│┃ ┃都合├─────┼───────┼────────┼──────┼──────┤┃ ┃四百枚│第百番│銀十貫目│兩袖三百目ツヽ│印違百番│銀壹貫目│┃ ┗━━━━┷━━━━━┷━━━━━━━┷━━━━━━━━┷━━━━━━┷━━━━━━┷━━━┛ 〔松任講方富札裏書〕 之によりて當籤となるべき札數と、分配せらるべき銀子の額とを知り得べし。揚り札の前後の番號を兩袖といひ、袖の前後にも幾何かを與ふる規定なるときは之を孫といひ、孫の前後は之を曾孫(ヒコ)と稱す。印違とは、例へば鶴印の某番が揚り札なるときは、龜印の同番號なるものも亦若干の分配を受くるをいふ。第一番といへるは抽籤第一回に當るものゝ意にして、富突札の番號にあらず。五番の所・十番の所とあるは、第一回抽籤より五回日毎・十回目毎の義にして、又五切・十切とも記さる。但し五切・十切なるも、二十五番・五十番・七十五番は特に多額を分配せらる。九十八回目・九十九回目の抽籤も將に終局に近きを以て分配を受け、第百回目を卷頭と稱し、最多額の分配を受く。その外第二回・第三回・第四回・第六同等の揚り札も亦若干を分配せらる。間々と記すもの即ち是なり。是に因りて計算するときは收入凡べて銀四十二貫五百目にして、支出二十四貫十九匁とし、講元の利得はその差額十八貫四百八十一匁に當る。但し上記の如き方法は、富突が漸く發達して複雜となりたる後のものにして、その初期に在りては尚頗る粗放なるものありしなるべし。