加賀藩の採りたる改定給祿及び現石の算出方法は、主として瀧川流の數學家松原匠作の案出に係り、精緻細密全國各藩に於いてその比類を見ざるものなり。今その概略を記せんに、大體に於いて上に薄く下に厚しするを目的とし、元高百石以下の者は給祿も亦舊に從ひて之を削減することなく、三千石以上の者はその十分の一を給祿とし、百石以上三千石に至る間は之に比例して遞増す。而してその坐標の軌跡は即ち一直線を爲すが故に、之を斜線法と命名せり。 斜線法によりて給祿を計算する法は、『術曰。置元祿。加定法千三百五十石。倍之。以二十九個除之。右改定祿也。』といへり。葢し元高三千石に對する改正給祿は三百石にして、最低百石に對する改正祿は依然百石とし、元高に於ける最高最低の差は二千九百石にして、改正給祿に於ける最高最低の差は二百石なるが故に、元高百石以上に於いて給祿の漸増する割合は、常に元高二十九に對して給祿二の比たるべし。之と同時に元高の高下に拘らず、その中に包含せらるゝ百石分は依然減少することなきを以て、之を算出するに當りては、先づ百石を控除し、その殘餘に二十九分の二を乘じて、然る後再び百石を加へざるべからず。かくて 改定給祿={(元高-100石)×2/29}+100 =元高×2-200/29+100 =元高×2+2700/29 =(元高+1350)×2/29 となりて、術に示すが如き結果を得るなり。