梟首は追剥・追落を爲したる者、家宅に侵入し人を縳して窃盜したる者、代官の下吏にして過分の私曲を働きたる者、山廻の吏にして多數の松樹を盜伐したる者、肝煎にして十村と共謀し隱田を爲したる者、女子にして男子に扮し關外に出でたる者、船頭にして業務上私曲を爲したる者、荷物問屋にして過分の私曲を爲したる者、窃盜の罪を累ねたる者、士人の娘に密通して紛擾を釀したる者、僧侶にして師匠等の銀子を盜み女犯破戒せる者、人家の毀壞を企つる徒黨に加り不屆を働きたる者、米仲買にして過分の引負したる者、主人に對し申懸りの訴状を提出したる者、子を捨てたる者、主筋の人を殺害せんとしたる者、遺恨を以て主を殺害し己は自害を仕損じたる者、米穀を他國に密賣したる者、輕輩にして士人を毆打したる者、婦女の奉公人を周旋するが爲に舟を以て領國の外に逸出したる者等、都べて一般の鑑戒たらしむるの要ある罪人に之を科せり。 生胴は、藩の倉庫に入りて窃盜したる者、窃盜又は博奕を犯して禁牢中破獄を謀りたる者、主人の娘と相對死を企て、娘を殺害したる後己は自害を仕損じたる者、算用場の印を僞造して之を行使したる者、私曲の露顯したるが爲、家族を件ひ乘船して他國に逃走せんとしたる者、士人の男子にして親殺・主殺の逆罪を犯せるもの、女と相對死を謀りて女を殺したる後己は逃走し且つ窃盜を爲せる者等に科せらる。大槻事件に、朝元が死後に於いて生胴に當るとせられし如きは、葢し例外として見るべきものなり。 斬刑を科せらるゝものは、窃盜・取逃・謀書・謀言・貨幣贋造・殺人等、犯罪の種類一々枚擧すべからず。而して殊にその罪状の重大なるものにありては、犀川・淺野川の兩大橋に晒し、若しくは市中を引廻したる後、斬に處したるものあり。凡そこの時代に於いては、刑と罪との意義を混同したりしが故に、斬刑は普通斬罪と呼ばれ、中期以前にありては又刎(ハネ)首とも殺害とも言はれしが、後刎首の刑名は犯人が士分たる場合にのみ用ひられ、殊に捕繩を打ちたるまゝ刎首するを縳(シバリ)首とも繩懸にて刎首ともいひ、犯人が庶民なる時は斬罪と稱するを例とせり。