民事の訴訟は、當事者若し郡方の農民なるときは、先づ居住地の肝煎・組合頭と議り、之を十村に訴へてその裁斷を仰ぐべく、十村の裁決する能はざるか、或はその裁量に不服なる場合には、訴状を十村相談所に提出し、尚不服なる時は郡奉行又は改作奉行に控訴す。民事訴訟中、高方及び地元の件、年貢納所の差引等、凡そ田地に關するものは改作奉行の所管に屬し、その他は郡奉行に屬す。當事者若し町人なるときは、町年寄・町奉行等の裁斷を仰ぎ、寺社方は寺社奉行に訴ふ。若し事重大にして、改作奉行・郡奉行・町奉行・寺社奉行等の理非を決し難きときは、公事場奉行の指揮を仰ぎ、若しくは公事場奉行の裁斷に委す。公事場奉行裁判を終るときは、案を具して藩侯の判決を仰ぎ、その輕易なるものは年寄中又は奉行の協議によりて決定せり。士人に在りては、全然不動産の賣買を爲すを得ざりしが故に、貸借人事に關する爭議を生ずることあるも、組頭の居中調停若しくは訓戒によりて終りしものゝ如し。