上記の外、加賀藩には尚近江領草高二千四百三十二石二斗六升二合に對する正租の收入あり。但しこの領地は定免法に據らずして、年々の豐凶に從ひ租率を異にする檢見法を用ひたるが故に、慶應三年の收納千二百十四石二斗二升一合六勺にして、翌明治元年には僅かに四百三十六石二斗二升六合六勺なりしが如き不同あり。 農業以外の各種營業に對して藩の徴收する租税を小物成と稱す。小物成は農村一般に之を課せられ、別ちて定小物成・散小物成の二種とす。定小物成は亦御印役とも稱し、寛文十年前田綱紀の時與へられて、村御印と稱する納税決定書にその額を記載せられたるものにして、毎年税額に異動あることなきものとす。村御印の書式は、之を農業の條に示したるが如く、田租と共に一村の納入すべき山役・野役・川役等各種の税目と税額とを記し、次に『小物成之分指引於有之者、十村見圖之上其通可出。』といひて、その産業の盛衰に伴ひ、十村の銓衡によりて税額を増減することあるが如く規定したるも、實際に於いては容易に變更を許すことなく、現に原野なきも尚野役を出し、漁撈を營まずして川役を上納するが如き村邑甚だ多く、稀に著大なる變化ある場合に山役等の退轉となるを見ることあるのみ。散小物成は亦散役ともいひ、他藩に浮役と稱するものに同じく、時々開業するものあり廢業するものありて、多年に亙り同一なる能はざるを以て、村邑に在りては十村等の考査に基づき、市部に在りては町會所に勤務する横目等の見積りによりて、或は新たに賦課し、或は在來のものを廢止することあり。各種商工業の運上銀又は冥加銀の如きも亦之に屬す。散小物成は定小物成の定まりたる後、新たに増加したるものなるが故に、税目に於いては定小物成と同一なるも、唯その税額が村御印に記されたる範圍以外に屬する點のみ異なるものあり。