次いで藩侯は、桐之間に至りて鶴の庖丁を見る。庖丁は料理頭舟之間の二之間に在りて之を勤め、用人・臺所奉行その傍に伺候す。庖丁終る時は、用人料理頭に對し目録を與ふ。この間に諸大夫及び先に伺候したる家老等皆服裝を改む。 次いで藩侯は小書院に着座し、叙爵せざる年寄・家老及び若年寄の拜禮を受く。その献上する太刀馬代の折紙を置くべき位置と、拜禮者の着座する場所とは、各身分に應じて嚴重なる規定あり。次に藩侯は大廣間上段に着座し、人持・定番馬廻頭・馬廻頭・小將頭・組頭並・町奉行の拜禮を受く。是等は皆一人宛出座し、太刀馬代を献上す。次に新番頭・歩頭・大組頭・持筒頭・持弓頭・金澤留守居番・先手物頭・物頭並・奧小將番頭・表小將番頭・大小將番頭・定番馬廻番頭・組外番頭・使番・臺所奉行・細工奉行・奧小將横目・表小將横目・大小將横目等、左右より一人宛出座し、各鳥目百疋を献上す。この鳥目は青色に染めたる麻の錢差に貫きたるものにして、之を御禮錢と稱す。在江戸の士も亦目録を以て献上し、奏者番代る々々之を藩侯に披露し、大小將引役の任に當る。 次に藩侯は大廣間下段に着座し、大小將・射手小頭・異風小頭・射手・異風・新番小頭・三十人頭・新番・儒者・醫師・坊主頭の拜禮を受く。此等の内、新番以上は大廣聞三之間に、儒者以下は大廣間御勝手に列座し、各自献上の鳥目を座前に置く。この時家老又は若年寄は襖を開き、奏者番は『いづれも年頭の御禮申上ぐる』ことを披露し、終りて襖を閉づ。次いで御居間書院二之間に於いて奧小將及び近習頭支配の者、舟之間に於いて表小將等拜禮し、各奏者番の披露ありて、藩侯はその居室に入る。