正月三日、藩侯は寶圓寺及び天徳院の租廟に詣で、歸城の後、熨斗目・麻上下を着して大廣問に出座し、昨日拜禮し得ざりし馬廻組の外、定番馬廻組・組外組・年寄支配平士・寺社奉行支配平士・町同心・厩方・歩小頭・守番歩小頭・算用者小頭・料理頭・細工者小頭・與力・大工頭に謁を賜ふ。是等は列座して鳥目を前に置き、惣禮を爲す。次いで柳之間に於いて、檢校・町年寄・家柄町人・肝煎惣代、遠所の町年寄・肝煎惣代並びに家柄の者に謁を賜ふ。 正月四日、登城の輩は儀式に關する者の外皆常服を用ひ、河北門・石川門・橋爪門・三ノ丸の番人は、服紗小袖・麻上下を着すといへども、儀式終る時は常服に復す。この日藩侯は小書院に出座し、隱居・年寄嫡子・人持嫡子・年寄庶子・人持庶子・頭分庶子の一人毎に謁を賜ひ、献上の鳥目を受く。但し藩侯にして多忙なるときは、大廣間に於いて惣禮とすることなきにあらず。次いで矢天井の間に於いて、昨日拜禮するを得ざりし定番馬廻組・組外組・與力等、鳥目を献げ惣禮を行ふ。 次いで藩侯は大廣間に出座し、三ノ丸に於いて射初の式を行ひたる射手裁許・射手及びその嫡男等に謁を賜ふ。この日また鐵炮打初の儀あり。異風裁許・異風・その嫡男等之を勤め、年寄一人藩侯代理として臨場す。又藩侯の居室に近き馬場に於いて乘初の式あり。若し藩侯自ら試乘する時は、一兩人之に陪す。次いで射初・打初・乘初を行ひたる者を、松之間二之間に召して祝儀の目録を賜ふ。下賜品は、射手裁許・異風裁許・馬奉行に麻上下一具宛とし、以下各差あり。次いで土地の間に於いて、射手・異風の輩に雜煮・吸物・取肴・酒を賜ひ、乘馬の徒は賄席に於いて一汁三菜・取肴・酒を、歩並の乘馬者には一汁二菜・煮物・取肴・酒を、仲間小頭・足輕・足輕並には一汁二菜と酒とを與へらる。この日又馬洗の儀あり。諸場・諸役所の吏も、用初と稱し、初めて出勤すといへども、尚事務を取らず。互に賀詞を述べたる後、直に歸宅するを例とせり。