試業は、素讀生に在りては天保十年以後、毎年二月・五月・八月・十一月の四次に行ふことゝせり。受驗者の資格は四書五經の素讀を完了したる者たることを要し、教師列座の上五經各部に就きて一枚宛を讀ましめ、その誤謬なきを及第とせらる。及第者は初め四書正解を與へられたりしが、後には小學句讀・大學匯參各一部を賞賜することゝなれり。若し受驗者にして白文五經を讀み得るときは、優等者として論語匯參を與へらる。素讀生は亦平生書道の師範に就きて學び得たる所を淨書し、臨時に之を訓蒙席に提出することを得、その成績秀逸なるものに生漉半紙一束を賞賜せり。生徒又は入學生に對しては、文政二年二月春秋二回の辨書を行はしむるの制を定めしが、天保十年以降減じて春又は秋の一回に於いて之を課せり。句讀師も亦之に同じ。辨書の形式は、昌平黌の定むる所に從ふ。辨書せしむべき章句の選定方法は、必ずしも常に同一ならず。或は豫め書目を定め置き、其の中に就きて一章又は一段を試みし事あり。或は教授等が已に教授したる篇章中より選び、各席區々に定めし事あり。又は督學に於いて兩三所を選び、其の中に就きて之を試みし事あり。答案作製の方法も、初め匿名となし、批評を加へたる後に姓名を記せしめし事あり。或は初より姓名を記したる答案を出さしめたる事あり。品等は之を上中下の三とし、考査の方法は平常の優劣をも參考してこれを定め、上等の成績を得たるものには、人員の多寡に拘らず四書正解又は四書匯參等を賞賜せり。又天保十年以後には總試業といふものありて、人持組以下平士並以上にして二十四歳より三十九歳に至るものは、役掛りの者を除き、三年に交番一回の試業を受くべきことゝせり。役掛り又は老年者といへども、特に志願するものは亦之に加ることを得べく、試業當日に事故ありて缺席したるものは更に日を定めて受驗せざるべからず。成績の優等なるものには書籍・衣服・金子等を賞賜せり。