前田利家は兵馬倥傯の間に在りて、猶能く學を嗜み、異能の士を引きて自ら益す。少にして織田信長の右筆武井肥後に師事し、後儒臣岡本三休に諮り、好みて論語を讀み、又他の漢籍中に就いて語の意に適するものあれば牢記して忘れず。その人を諭すや、動もすれば輙ち古確言を引きて以て證としたりといふが如き、皆以てその素養を見るに足る。時人稱して文武大將といへり。