今村正信、通稱は徳兵衞、桂村又は二樂堂と號し、平岩仙桂の門人なり。正信客を二樂堂に會す。其の地麻水に臨み、夢香山に面す。一詩を賦して曰く。
冬日與友飮二樂堂
渭北初冬官暇日。捲簾倶望一高樓。窻間遠嶺千秋雪。檻外逝川萬里流。林葉風前紅錦亂。長橋波上彩虹浮。笑談詩酒文騷客。吟弄誰知僊境遊。

時に剛伯坐に在り、直に之に和して曰く。

一從騷客詩成後。千歳品題多景樓。得意長忘世塵汚。讀書不覺歳華流。仁山高處松杉古。智水清時風月浮。二樂之堂自樂適。平生獨向箇中遊。

正信の詩、鳩巣・順庵等と贈答するもの多しといへども、格調いづれも高からず、吟誦に堪ふるものなし。
中秋雨
生怕中秋雨。浮雲鬱未晴。絶無新月影。徒有老蟲聲。剪燭聞簷滴。垂簾説野情。繞門暗流水。似作不平鳴。

かくの如きは稍妙趣あるものに似たり。
印牧直方、通稱は清八、鵝溪と號す。草隸に工みにして、運筆老成。又詩を嗜む。元祿十一年の咏に曰く。
戊寅元日
歳星和氣似君子。坦蕩移風北海天。春伴早梅侵臘雪。雲催歸雁度山巓。已爲翰墨場中樂。何問竹林方外賢。却憶五千言土苴。不如一樹發芳妍。

直方嘗て一夜聯句千章を賦す、故に句中之に及ぶ。其の子に直道あり、大地昌言に學ぶ。
哭陸渾先生
冠纓濯去臥滄浪。丘壑蹉跎白髮長。四壁琴書歸涕涙。百年藜藿富文章。青燈夜宿孤墳草。寳劍秋懸老樹霜。欲問山翁舊游地。蕭々明月滿嚢陽。