寛永二十年十月前田光高江戸に至らんとせしに、途中輿中に假睡して佳句を得たり。既にしてその夫人嫡子綱紀を生む。光高大に喜び、即ち賀莚を張りて百韻の連歌を興行せしめき。光高は連歌の作法を里村昌程・同昌佐に學びし人なり。 寛永二十一年三月十七日 夢想 開くより梅は千里の匂かな こゑ心よき宿の鶯光高 春に成あしたの庭の雪消て利常 光長閑に照す池水犬 千 代 岩がねの波もかすめる夜半の月昌程 舟つなぎおく流はるけし昌佐 雨に猶かげ茂るらしむら柳相巴 早苗そよめく小田の夕露孝治 人かよふ里の中道幽にて重成 鳴たつ雁の遠ざかる聲廣直 眞砂地は霧降ながら明はなれ定延 秋來て涼し濱づたひせん執筆 (下略) 〔靈椿遺芳〕