藩祖前田利家、兵馬倥傯の中に在りて、能く學を好み、又和歌を能くす。後陽成天皇嘗て豐臣秀吉の聚樂第に幸し給ふや、利家之に陪伴し、和歌を作りて奉献せり。 寄松祝 うゑおける砌の松に君が經ん千代の行衞ぞかねてしらるゝ 又文祿三年、豐臣秀吉の花を芳野に賞するや、利家之に從ひて、五首の和歌を詠じき。 花の願 花咲けど心をつくすよしのやままたこん春を思ひやるにも 花をちらさぬ風 ちらさじとおもふ櫻の花の枝よしのゝ里は風もふかじな 瀧の上の花 ちる花に瀧のしら玉まじはりて雪かとみねの雲ぞかゝれる 神の前の花 千早ふる神のめぐみにかなひてぞけふみよしのゝ花を見る哉 花の祝 よしの山花のさかりの久しきに君がよはひは限りあらじな