遠藤高璟が文政六年時辰割を更定したることに就いては、又別に之を記せざるべからず。葢し藩初以來時辰の法なかりしにあらずといへども、之を實際に使用したるは承應の頃金澤城中に時鐘を設けたる時にあり。この時中村久越は爲に頗る利便となれることをいひしに、前田利常が『何之能事有之哉。時鐘無之候而茂、成々に成申物に候。世之中作法等宜成候故、時鐘も無之候得者難計物之樣に何茂存候。』といへること、藤田安勝筆記の微妙公夜話に見えたり。以て藩初の事情を窺ふに足る。時鐘設置の後時辰割も漸く精しくなりしが、素より全國一般の法に倣ひたるものにして、晝間と夜間とを各六時辰に劃し、別に晨前と昏前とに各餘時を置けり。是を以て晨と昏との間を十三分するときは、その二は晝の一時辰となり、その一は昏前の餘時となり、之と同じく昏と晨との間を十三分すれば、その二は夜の一時辰となり、その一は晨前の餘時となる。時辰割は太陽の出入に因る晝夜の長さを基礎とせず。冬至に於ける晝の一時辰と夜の一時辰とを等長の時間に定め、その後夏至に至るまでは漸次晝の一時辰を長くして夜の一時辰を短くし、夏至より冬至に至るまでは之に反す。而もその長短は、日々之を變ずるの煩に堪へざるを以て、立春・雨水・啓蟄・春分・清明・穀雨・立夏・小滿・芒種・夏至・小暑・大暑・立秋・處暑・白露・秋分・寒露・霜降・立冬・小雪・大雪・冬至・小寒・大寒の二十四節氣及び各節氣の中間に別ち、一年四十八回の變化を爲さしむ。即ち冬至前四日目よりは冬至の刻法を用ひ、冬至後四日目より冬至・小寒間の刻法に從ひ、小寒前四日目より小寒の刻法に從ふが如し。今冬至・春分(秋分)・夏至の三節氣を選び、その一日中に於ける刻分と辰とを擧ぐれば左の如し。 冬至春分(秋分)夏至 刻 分 秒刻 分 秒刻 分 秒日出刻分30・20・2925・00・0019・79・71日入刻分69・79・7175・00・0080・20・29日出入晝刻分39・59・4250・00・0060・40・58日入出夜刻分60・40・5850・00・0039・59・42晨刻分25・00・00(00)20・24・12(50)13・90・05(00)昏刻分75・00・00(00)79・75・88(50)86・09・95(00)晨昏晝刻分50・00・0059・51・7772・19・90昏晨夜刻分50・00・0040・48・2327・80・10晝半辰法 3・84・61(54) 4・57・82(85) 5・55・37(69)夜半辰法 3・84・61(54) 3・11・40(23) 2・13・85(38)六ッ(晨卯)25・00・0020・24・1213・90・05五ッ(辰)32・69・2329・39・7725・00・80四ッ(巳)40・38・4638・55・4336・11・56九ッ(午)48・07・6947・71・0947・22・31八ッ(未)55・76・9256・86・7458・33・07七ッ(申)63・46・1566・02・4069・43・82餘71・15・3875・18・0680・54・57六ッ(昏酉)75・00・0079・75・8986・09・95五ッ(戌)82・69・2385・98・6990・37・66四ッ(亥)90・38・4692・21・4994・65・37九ッ(子)98・07・6998・44・3098・93・07八ッ(丑) 5・76・92 4・67・10 3・20・78七ッ(寅)13・46・1510・89・91 7・48・49餘21・15・3817・12・7111・76・20 前記刻分秒といへるは、一日を百刻とし、一刻を百分とし、一分を百秒とせるものにして、夜半零刻より數へ初む。日出と日入とは太陽の中心が水平線を出入する刻分にして、日入刻分より日出刻分を減じたるものを日出入晝刻分とし、日出刻分より日入刻分を減じたるものを日入出夜刻分とす。但し後者に在りては夜半の零刻を通過するが故に、日出刻分に百刻を加へたる後、日入刻分を減ずべきものとす。晨とは太陽の水平線下十三度四十一分五十秒(此の分秒は六十分法に於いて)の位置にある時を指し、昏も亦日沒後同位置に在る時をいふ。故に昏刻分より晨刻分を減じたるものは晨昏晝刻分にして、朝夕の薄明をも含むものとし、晨刻分に百刻を加へたるものより昏刻分を減ずるときは昏晨夜刻分なり。晝半辰法は晨昏晝刻分を十三除したる値にして、晨六ッ以後晝半辰法の二倍を加へて、順次に五ッ・四ッ・九ッ・八ッ・七ッ・餘を得、餘に晝半辰法を加へたるものは昏六ッなり。昏六ッ以後夜半辰法の二倍を加へて、順次に五ッ・四ッ・九ッ・八ッ・七ッ・餘を得、餘に夜半辰法を加へて晨六ッとす。かく晨昏間及び昏晨間を各十三分したるものを半辰とするが故に、之を十三割の法ともいへるなり。若し夫一年間四十八候に於ける晝夜各一辰の長さに至りては左表の如し。 晝一時辰昏前餘時夜一時辰晨前餘時 刻 分 秒刻 分 秒刻 分 秒刻 分 秒冬至 7・69・23(08) 3・84・61(54) 7・69・23(08) 3・84・61(54)(冬至小寒)間 7・70・57(38) 3・85・28(69) 7・67・88(76) 3・83・94(38)小寒 7・74・55(54) 3・87・27(77) 7・63・90(62) 3・81・95(31)(小寒大寒)間 7・81・04(00) 3・90・52(00) 7・57・42(16) 3・78・71(08)大寒 7・89・82(46) 3・94・91(23) 7・48・63(70) 3・74・31(85)(大寒立春)間 8・00・66(92) 4・00・33(46) 7・37・79(24) 3・68・89(62)立春 8・13・32(16) 4・06・66(08) 7・25・14(00) 3・62・57(00)(立春雨水)間 8・27・54(00) 4・13・77(00) 7・10・92(16) 3・55・46(08)雨水 8・43・11(08) 4・21・55(55) 6・95・35(08) 3・47・67(54)(雨水啓蟄)間 8・59・84(92) 4・29・92(46) 6・78・61(24) 3・39・30(62)啓蟄 8・77・60(30) 4・38・80(15) 6・60・85(84) 3・30・42(92)(啓蟄春分)間 8・96・24(46) 4・48・12(23) 6・42・21(70) 3・21・10(85)春分 9・15・65(70) 4・57・82(85) 6・22・80(46) 3・11・40(23)(春分清明)間 9・35・72(30) 4・67・86(15) 6・02・73(84) 3・01・36(92)清明 9・56・30(92) 4・78・15(46) 5・82・15(24) 2・91・07(62)(清明穀雨)間 9・77・24(30) 4・88・62(15) 5・61・21(84) 2・80・60(92)穀雨 9・98・29(24) 4・99・14(62) 5・40・16(92) 2・70・08(46)(穀雨立夏)間10・19・13(84) 5・09・56(92) 5・19・32(30) 2・59・66(15)立夏10・39・35(84) 5・19・67(92) 4・99・10(30) 2・49・55(15)(立夏小滿)間10・58・40(00) 5・29・20(00) 4・80・06(16) 2・40・03(08)小滿10・75・59(08) 5・37・79(54) 4・62・87(08) 2・31・43(54)(小滿芒種)間10・90・16(16) 5・45・08(08) 4・48・30(00) 2・24・15(00)芒種11・01・31(84) 5・50・65(92) 4・37・14(30) 2・18・57(15)(芒種夏至)間11・08・34(92) 5・54・17(46) 4・30・11(24) 2・15・05(62)夏至11・10・75(38) 5・55・37(69) 4・27・70(76) 2・13・85(38)(夏至小暑)間11・08・34(92) 5・54・17(46) 4・30・11(24) 2・15・05(62)小暑11・01・31(84) 5・50・65(92) 4・37・14(30) 2・18・57(15)(小暑大暑)間10・90・16(16) 5・45・08(08) 4・48・30(00) 2・24・15(00)大暑10・75・59(08) 5・37・79(54) 4・68・87(08) 2・31・43(54)(大暑立秋)間10・58・40(00) 5・29・20(00) 4・80・06(16) 2・40・03(08)立秋10・39・35(84) 5・19・67(92) 4・99・10(30) 2・49・55(15)(立秋處暑)間10・19・13(84) 5・09・56(92) 5・19・32(30) 2・59・66(15)處暑 9・98・29(24) 4・99・14(62) 5・40・16(92) 2・70・08(46)(處暑白露)間 9・77・24(30) 4・88・62(15) 5・61・21(84) 2・80・60(92)白露 9・56・30(92) 4・78・15(46) 5・82・15(24) 2・91・07(62)(白露秋分)間 9・35・72(30) 4・67・86(15) 6・02・73(84) 3・01・36(92)秋分 9・15・65(70) 4・57・82(85) 6・22・80(46) 3・11・40(23)(秋分寒露)間 8・96・24(46) 4・48・12(23) 6・42・21(70) 3・21・10(85)寒露 8・77・60(30) 4・38・80(15) 6・60・85(84) 3・30・42(92)(寒露霜降)間 8・59・84(92) 4・29・92(46) 6・78・61(24) 3・39・30(62)霜降 8・43・11(08) 4・21・55(54) 6・95・35(08) 3・47・67(54)(霜降立冬)間 8・27・54(00) 4・13・77(00) 7・10・92(16) 3・55・46(08)立冬 8・13・32(16) 4・06・66(08) 7・25・14(00) 3・62・57(00)(立冬小雪)間 8・00・66(92) 4・00・33(46) 7・37・79(24) 3・68・89(62)小雪 7・89・82(46) 3・94・91(23) 7・48・63(70) 3・74・31(85)(小雪大雪)間 7・81・04(00) 3・90・52(00) 7・57・42(16) 3・78・71(08)大雪 7・74・55(54) 3・87・27(77) 7・63・90(62) 3・81・95(31)(大雪冬至)間 7・70・57(38) 3・85・28(69) 7・67・88(76) 3・83・94(38) 〔御時割〕 上記十三割の時辰を定むるは、元來鐘撞足輕家傳の法によれり。然るに文政六年前田齊廣の竹澤殿に時鐘を設くるや、遠藤高璟は古來の法を以て不便なりとし、侯に稟して晝夜を各十二割とし、その十二分の二を一時辰として、餘時を置くこと廢し、八月四日晝八ッより之を施行せり。當時正時割と稱したるもの是なり。但しその晝と夜とは尚日出日沒によらず、冬至に於いて晝五十刻夜五十刻とする晨昏の慣用法に則りたるが故に、單に從來の十三割を十二割とし、午刻を日中に、子刻を夜半に一致せしめたるに過ぎず。二十四節季とその中間とに應じて一時辰の長短を變ずることも、亦尚舊に依りしなり。然るに世人却りて之を喜ばざるもの多かりしかば、齊廣の卒後文政七年十二月二十八日より十三割に復し、次いで高璟は鐘撞足輕家傳の法に基づきて確實なる數字を算出して藩に上り、文政八年五月六日以降之に據ることゝなれり。前に掲げたる時辰割の表は、即ち高璟の推算したるものに係る。後明治二年五月八日藩侯前田慶寧は西洋の法に倣ひて、午前と午後とを分かち、各一時より十二時に至るまでを數ふることゝせり。時は初め多く字の文字を用ひ、明治三年の頃には字と時とを混用す。