鳳至郡中居の鑄物師が、その業務上京師なる御藏氏の支配に屬したることは、第一編に之を言へり。而して全國の鑄物師等、皆等しく御藏氏を經て朝官の受領を請ひたるを以て、天正四年御藏宗弘は鑄物師座法の掟なるものを制定して配下に頒ちたりしが、中居鑄物師も亦素より同一の取締を受けたりき。
鑄物師座法之掟
一、御公用被仰出候節者、尊朝恩無遲滯相勤儀可爲專要事。
一、御即位之砌者、任先々吉例、御祝儀勤仕之儀不可有疎略事。
一、諸役御免除之事、無市料山料率分例物已下並諸國海河渡等之煩可致往還。尚鑄物師中自國他國相論之族有之者、則沒收所帶一門之族迄可被行死罪儀者、數通之御牒之御文言有之事。
一、鐘鑄等之事者、一國一郡に御牒並舊書等所持之者有之所へは、假令舊書頂戴之雖爲鑄物師、其所へ入亂鑪相建令鑄營儀堅可爲停止。其所に由緒之鑄物師於無之者格別也。況他方より入込候者、互以入魂安靜可勤事。
一、受領之事者其人體計にて無繼目。輙子孫に相傳儀有間敷事。
一、新鑄物師者、勿論御代々御牒並御綸旨御文言に、全爲御禁止之儀、猶寶徳年中差出請文百九人子孫之外、新儀之煩不可企巧。聊於違亂之輩者於不命停止者、既被成下處之舊書並仁平年中より令經歴供御人詮無之事。
一、依勤職之勝手廻國、並相替譯有之者、早速可申訴事。
一、御藏代替之節者、祝儀如例可致馳走事。
右之趣經高聞、永爲鑄物師職座法定置處也。若於違變之者急度可遂糺明者也。仍如件。
天正四年八月十三日御藏宗弘
〔中居物師傳書〕