改作奉行は、變地所又は論所の視察、不作の年に於ける立毛見立、その他臨時に郡中に出張すること甚だ多しといへども、勸農の爲にする恒例の巡廻は荒起・植付・草拂の三回なりとす。何れも一國一人宛出役し、荒起見分の廻村は春土用に、植付見分の廻村は五月下旬乃至六月下旬に於いて概ね植付の終了したる頃を計り、草拂見分の廻村は又草修理見分ともいひて夏の土用に於いてす。 植付見分及び草拂見分の際に在りては、所々に村役人を召集して勸農の趣旨を布達す。之を二度の申渡といひ、その内容概ね左の如くにして、言語を温和にし、能く下民をしてその趣旨を理解せしむるを本意とすといへり。 植付之樣子見屆、草生宜相見ゆる。猶更此末養手入、少も無油斷樣に勢子いたせ。物跡之儀は、別而屎仕込等手入方厚いたし本田に劣らぬ樣仕立申樣に可有之。改作之御法に而、一村之作甲乙無之樣仕立る儀を第一に心得、度々領廻りいたし厚勢子いたせ。病氣故障等にて手後に可成ものも有之候はゞ、相互に助合、少しも手後れぬ樣相心得。畠物之儀も准之、手入養無油斷樣勢子をいれ。用水の儀も、流末迄和順に取分、我儘成族無之樣懇に申談ぜ。麥苅入候はゞ、猥に不取散樣心得させ。川除等の儀も、兼々申渡通、成限り自普請にいたし、大破に相成らぬ樣常に心得。浦方山方稼所之儀は、耕作之隙に稼をも出情いたさせ。惣じて御收納皆濟之儀を片時も不忘、偏に一統耕業一途に相勵樣可有之儀にて、御上之御恩澤聊もわすれ不申樣、能々指引いたし、勿論衣食住をはじめ、萬端驕りたる儀無之、分限を不失、質朴之風俗に成樣、常々能々申聞せ。一村におゐて、肝煎等は大切之役儀に候間、萬事正直にして下々之もの共厚致教諭、改作不情我儘のもの有之候はゞ早速申斷れ。此外時々御扶持人等より申渡趣、小百姓・頭振末々迄も麁略無之樣可相守旨常々申諭せ。勿論改作御法之趣聊無違失相守れ。靜に退け。 〔河合録〕 ○ 草拂見分致す。猶更養手入無油斷致入情樣勢子いたせ。草修理之儀は限りも無之、幾度にても懇に爲取拂、とかく一村之作甲乙無之やう仕立る儀第一に候得ば、其方ども厚心得、領切打廻り〱、手ぬけ無之樣勢子いたせ。用水之儀、豫々申渡通に、流末まで順道に取分よ。堤・川除・波除大破にいたらぬやう常々心懸、浦方獵業鹽稼、尤油斷なく相勵樣に勢子いたせ。別て鹽士村々精誠出情いたし、未進にいたらぬやう相心得させ。秋縮御請之儀、前々申渡通、他組他村を不見合、村切速に御請致す樣心得よ。歩入之儀も、御定歩入落ぬやう、尤精誠相進手早く皆濟いたす樣、一統厚心懸る樣得と申諭せ。御收納米性之儀も、いかにも相撰、念頃に相仕立させ、俵拵・繩・こも等も精誠を盡し宜樣に爲仕立。變地所起返しも可成限り出情いたし、田畑に相仕立させ、惣じて衣食住を初、萬事少しも驕りたる儀無之、いかにも質素之風俗に相成樣、小前末々迄常々申諭せ。別而御仕立村々者御當節結構被仰付置候儀に候得ば、成限り相勵、早々取立候樣心懸よ。此外改作御法之趣常々相守、御上之御恩澤片時も忘却不致樣能々申諭せ。臨時御扶持人等より申渡趣無違失相守れ。云々。 〔河合録〕