鳳至郡門前なる少彦名社即ち今の櫛比神社に在りても、亦五穀豐饒を祈念する爲に特殊の祭禮を執行す。御當祭といふもの是にして、その産子たる走出・清水二部落より代る々々御當番を定め、その御當番となりたるものは一月十二日神職及び戸主一同を招きて饗應す。飮食終る時は男女皆御當番と共に社參し、神職の祈念終るを待ちて兩部落より各著袴せるもの一人を出し、會衆がまんざいろくとうの合唱と、太鼓の拍子とによりて囃され、唄をうたひて舞踏す。舞ひ終る時は、神前に供へたる餠を投げて會衆に與ふ。左に掲ぐるは走出の唄にして、清水のものは之と詠み込みたる地名を異にせり。 まんざいろくとう〱〱。ついと起つて申するやうは、嵐の河原の稻なんぞ、大きにふとりて白鬚かい撫で實入が能う、一束に一斗八升。續いて申するやうは、西の河原の大根なんぞも、大きにふとりて葉持ちがようて、ねいつてまつころんで。續いて申するやうは、浦の垣内の胡蘿蔔なんぞ、牛蒡なんぞ、大きにふと抄て葉持ちがようて、ねいつてまつころんで。續いて申するやうは、下司が原の大麥なんぞ、小麥なんぞ、大きにふとりて實入りがようて、あつちへゆらりこつちへゆらり。續いて申するやうは、惠比壽山の大豆なんぞ、小豆なんぞ、大きにふとりて實入りが能うて、あつちへしやら〱こつちへしやら〱。續いて申するやうは、粟穗なんぞ、稗穗なんぞ、大きにふとりて實入りが能うて、あつちもふら〱こつちもふら〱。續て申するやうは、二十四の作なんぞ、むらほも所も、若い衆も子供も御繁昌で〱。まんざいろくとう〱。 〔鳳至郡櫛比村走出御當祭の唄〕