町奉行乃ち添書を加へ、老臣の承認を得たる後江戸邸の聞番に達し、聞番はその許可を得んことに盡力したりしも要領を得ざりしかば、十四年四月遂に公然勘定奉行戸川播磨守に書面を提出したるに、六月に至り播磨守は、加賀藩の領内に於いて江戸製の金箔を請賣するものを一人に指定せんことは何等妨なしといへども、國元にて打箔に從事することは、假令藩侯所用のものに限るとも許可すべきにあらずと指令せり。是に於いて左助は已むを得ず前來の趣旨を改め、單に江戸製箔を領内に專賣するが爲に、金座より免許の看板を受け、以て不正賣買の跡を絶ち、公私に利便を與へんとの意を認め、弘化元年九月再び町奉行所に出願せり。因りて町奉行は直に進達の手績を執りしが、金座は漸く翌二年三月に至りてその看板を受理すベく左助の東下せんことを促し來れり。左助は大に喜び、直に旅裝を整へて四月十三日江戸に着したりしも、その後藩吏と金座との交渉尚頗る煩雜を要し、彼が藩の聞番富永左膳に誘はれて金座役所に出頭し、加賀藩の領内に於いて江戸製金箔を賣捌くの特許を與へらるゝと同時に、左の取締規則と烙印を施せる看板とを得たるは、實に八月二十日たりしなり。 控 一、江戸金箔屋之外、職人共より直相對を以、金箔類買入候儀は勿論、其外箔屑類買入、於自宅金箔製候儀堅不相成事。 一、改印無之金箔類商賣致聞敷候事。 一、金箔類之儀、江戸金箔屋共より仲間内取り引、安直段を以買入、且賣出し直段の儀者・金箔屋共去亥年(天保十年)中申立定書之通可相心得事。 一、金箔類、江戸金箔屋誰々方より何程買入、何程賣出し候段、差引書毎年可差出候。 右之條々堅相守、聊心得違無之樣可取扱候。 巳八月(弘化二年) 〔箔方諸事舊記〕 金箔請賣所看板金澤市古村外次郎氏藏 金箔請賣所看板