刻煙草の包裝は、普通之を太鼓状となし白紙にて卷き、その上を紺紙にて帶の如くす。紺紙の幅は白紙より稍狹きが故に、兩端に白色を顯し、帶紙の相接する所は糊にて固着し、その上に白色小紙片を貼布す。この紙片は製造家の屋號を押切にて押捺したるものなり。又文庫煙草と稱する包裝ありて、稍厚き紙を折箱樣に作り、之に煙草を填充したるものとし、文庫の表面に煙草の銘を、裏面に押切にて屋號を押捺せり。煙草の量目は一包二百匁と定め、之を一斤と稱す。藩末にはその價格二百文より最上等三百文に及べり。 葉煙草の賣買は、初秋の頃製造家が耕作者の家に就き、聯繩に吊せる青葉を見て賣買の豫約を爲し、中勘代銀を與へ、翌年春に至りて葉煙草を受取り、後約二回に本計算を行ふを慣習とせり。又耕作者が自ら代銀の必要を生ずるときは、聯繩のまゝ之を齎して煙草屋に販賣することあり。是等の葉煙草は乾葉の儘にして熨斗することなく、その價格は製造せる刻煙草と多くの差なし。是を以て全然小賣のみの營業者を見ることなく、煙草屋は即ち製造業と販賣業を兼ねたりしなり。 煙草を藩外に輸出することは、之を禁止するを原則とし、その許可を得たるものゝみ輸出を妨げずとせり。此の如きは獨煙草に對してのみならず、藩内の諸産物に通じたる方針にして、特に藩の專賣品たる鹽を密輸出したる場合の如きは死刑を以て臨みたりといへども、煙草に就きては頗る寛大にして、單に商品を沒收するに止れり。若し商人にして煙草輸出の許可を得んとするものある時は、先づ町會所に申告し、町會所はその數量・移出先・價格を調査し、移出先の價格が移出元のそれに比して勝れるを認むれば利益高を標準として課税し、その納入の後鑑札を下附せり。この課税をツブの冥加金といひ、鑑札をツブの小札と稱へたりき。小札の表には、通煙草何百貫と書し、裏に郡奉行・町役人及び本人の名を書す。小札は上質の中折紙を四ッ切又は六ッ切にしたるを用ひ、四ッ切なるを大ツブ、六ッ切なるを小ツブといへり。ツブは津歩にして、津出しに對する歩合税の義にあらざるか。尚考ふべし。