銀仲の運用する後刻證文は、後刻手形又は後刻銀と稱することあり。これが利用は極めて古き時代より起りたるものゝ如く、米仲買相互の間、若しくは米仲買と銀仲との間、或は銀仲とその他との間に於いて行使せられたる手形にして、その名稱の示すが如く、或る一定の期日に金錢又は商品を受渡しすべき契約を以て發行するを本來の性質とし、その運用の方法は略左記の如し。 今若し米仲買甲ありて、客筋より、藩の給人某家の拂米百石の買入注文を受けたる時は、先づその客筋より代銀を受け、更に之を某家の拂米を取次ぐ米仲買乙に交付して、米切手の買出を依頼す。是に於いて乙米仲買は、某日米切手を交付すべき旨を記したる後刻證交を甲米仲買に發行し、その代銀を拂主たるべき給人に持參し、之と引替に受取りたる米切手を、先に交付し置きたる後刻證文と引替に甲米仲買に引渡すものとす。これ後刻證文運用法の一なり。 米仲買が、客筋より、給人某家拂米の買入方を依頼せられたる場合に、その客筋が之に對する代銀を有せずして注文を發し、之と同時に代銀の調達をも米仲買に依頼したる時は、米仲買は若干の手付銀を客筋より受取りたる後、銀仲に交渉して銀主たるべきものを求めしむ。而して銀仲の銀主を求め得たる時は、先づ自ら後刻證文を發行して銀主に差入れ、その借り受けたる銀子を米仲買に交付す。米仲買が銀仲の仲介によりて銀主より銀子を借用したる時は、その取次銀仲と兩名連署したる證書を銀主に交付す。但し特に銀主の希望によりて、その氏名を秘密にすることあり。此の場合に在りては取次銀仲が借用者と連署したる證書を、取次銀仲自身宛にて發行し、之を銀主に交付したる後、先に銀仲より銀主に宛てたる後刻證文を回收す。是に於いて米仲買はその借用銀及び手付銀を以て米切手を買入れ、之に添ふるに入目録を以てし、銀仲を經て先の銀主に提供し、前に交付し置きたる米仲買及び銀仲連署の後刻證文を回收す。こゝに入目録といへるは、米切手を質物として銀子を借用したるを以て追つて本借用證書に改むべきことを契約したる證書なり。而して本借用證書は、保證人を立つるの手數を要するを以て、通常之を作製せずして入目録の儘たらしむ。之を後刻證文運用法の二とす。