とくはかに御萬歳とや、有難かりける君が代の、君が心は色を増す、其色を増す花の頃、北陸道の繁昌や、六十三次宿々の、其宿次を萬歳の、言葉に祀ひ奉る。 先づ一番の御泊。立つて振り出す御城下の、やれ御通りぢや先き退けと、三本道具の數々は、盡きせぬ御世の御家中に、君が心は淺野川、少し名殘は春日町、胸は大樋と思へども、義理と情は柳橋、今町・太田・二日市、右にやはたの八幡を、拜して通る津幡宿、五穀成就萬民の、共に御晝は賑しき。暫しねざさや竹の橋、前坂越えて倶利伽羅の、餠に大小ふどうあり。三里の峠打越えて、埴生の八幡伏拜み、今石動や小矢部川、心にかゝる七瀬川、四里八町の道すがら、遙に見ゆる高岡の、御本陣に着きたまふ。 二番の御泊。小杉・下村打越えて、音に聞えし草島の、渡しを越えて悦んで、何か岩瀬の飛團子、心にかゝる娘茶屋、我も人もと入り給ふ。口と鬚とを滑川、早月川を打越えて、魚津の町に御本陣。 三番の御泊。四十八瀬の川越えて、日數を積る三日市、浦山宿と思へども、一夜は二世と相本の、橋を渡りて子寶の、泊の宿に御本陣。 四番の御泊。國の堺も今日限り、市振宿を打越えて、歌で靡かす駒歸。我先に往く立つ波の、引く間も待たず親不知。日本に名高き姫川を、どうぞ青海と思へども、兎角浮世は糸魚川。 五番の御泊。能生權現を伏し拜み、涼しく見ゆる名立山、青木峠に腰をかけ、四海の波も治りて、上り下りの有馬川、あまり砂地が長濱の、奴・六尺よろ〱と、五智の茶屋へと腰をかけ、各休む中屋舖、主從渡るいづみ橋、高田の宿に御本陣。 六番の御泊。荒井の宿を打越えて、たんと御客を松崎の、其の國元の奧方の、氣は圓山や二俣の、しびれるやうにおもへども、大田切(オホダンギリ)や小田切、こゝろ關川お關所の、熊坂こえて野尻をや、待つても行けや柏原、古間で通る兒玉坂、荒町の宿に御本陣。 七番目の御泊。拜して通る善光寺、川中島の合戰に、そのかみ越後の謙信は、鎧も脱がず打渡る、丹波島とは是とかや。こゝろ深見の筑摩川、屋代の宿はこれとかや。姨捨山を右に見て、げんこ煙草の品々に、恩にきせるや旅の空、坂城の宿に御本陣。 八番の御泊。山田の茶屋に腰をかけ、たんと飮みこむ白酒や、上田の宿はこれとかや。運の開くは田中宿、小諸の宿を打越えて、大坂・小坂これとかや。左に見ゆる淺間山、峰の煙の絶間なく、追分の宿に御本陣。 九番の御泊。駒も勇みし沓掛の、しばし見ゆるは輕井澤、碓井峠を打越えて、坂本の宿に入り給ふ。右に見ゆるは妙義山、夜に日にかはる風景を、百合若さまが射とめたる、はや御宿を松井田の、安中の宿に御本陣。 十番の御泊。名も高崎や倉賀野の、水も落合新町の、本庄かけて敦盛の、熊谷の宿に御本陣。 十一番の御泊。吹上て行く鴻の巣の、桶川越えて大宮の、諸願成就浦和宿、蕨の宿に御本陣。 十二番の御泊。けふ御江戸へつぎ〱の、並木の松も打過ぎて、戸田の渡も恙なく、やれ嬉しやと板橋の、伊勢屋〱と待ち給ふ。是れ大君の下屋敷、見るに思をます鏡、白山かけて追分の、御門ひらける一ヶ國、上下羽を伸す萬歳を、祀ひ數へて舞ひ納む。 〔萬歳北國下道中〕