絵本でたどる ながいながい進化のはなし
石川県立図書館 開館特別展
もくじ
第1部
絵本でたどるながいながい進化のはなし

約38億年前とされる最初の生きものの出現から現代まで、その進化がとぎれることなく続いてきたから、私たちヒトやさまざまな生きものがこの地球でともにくらしています。
この企画展示では、遠い祖先から続くながいながい進化のはなしを、絵本でたどります。
絵本から飛び出した進化の絵巻や恐竜たちの大型パネルが図書館の中に出現し、デイノニクスの骨格標本やアノマロカリスの化石が国立科学博物館からやってきました!
AR体験スポットでは、あなたのスマホの中で恐竜が動き回ります。
絵本・児童書・図鑑・読みものなど、進化や自然科学に関するさまざまな本も展示コーナーに大集合。
読みたくなる一冊にきっと出会えることでしょう。
鳥になった恐竜のはなし

絵本「とりになったきょうりゅうのはなし 改訂版」から飛び出した5体の恐竜と一緒に、恐竜から鳥への進化の物語をたどりましょう。
大昔の地球はとてもあたたかくて、さまざまな種類の恐竜がすんでいました。
植物を食べる恐竜、肉食の恐竜、大きな恐竜、小さな恐竜、木の上で暮らす恐竜、つばさを持つ恐竜・・・
そのころの地球では、地上を歩く大きな恐竜とつばさのある小さな恐竜とが、いっしょにえさをとる姿が見られたことでしょう。
ところが、いまから6600万年ほど前のこと、地球の様子が大きく変わり、大きな恐竜の仲間はほとんど死にたえてしまいます。
けれども、つばさを持ち飛ぶことのできる小さな恐竜の子孫だけは生き残りました。
それが、鳥なのです。鳥は生き残った恐竜だったのです。
第2部
最初の生きものから続く進化
最初の生きものの出現から現代まで、その進化がとぎれることなく続いてきたから、私たちヒトやさまざまな生きものがこの地球でともにくらしています。遠い祖先から続くながいながい進化のはなしを、絵本でたどっていきましょう。
<ながいながい進化のはなし>







約46億年前、うちゅうのなかに地球が誕生しました。でも、地球の上にはまだ生きものはいませんでした。それから、ながいながい時間をかけて地球に海ができ、約38億年前、1個の細胞が生まれました。その細胞から生きものの歴史が始まったのです。
第3部
絵本から見る発見のはなし

ここに2冊の絵本があります。
右の絵本は左よりも後に出版されたものです。
同じタイトルですが、表紙や中の文章が少し変わっています。
2冊の絵本を見比べて、どこが、なぜ、変わったのか
一緒に見ていきましょう。
絵の色のちがい、増えた言葉、変化した言葉・・・
それらの背景には、新しい科学の発見があるのです。
こんにちは。恐竜の進化について研究している真鍋真です。
『せつめいのれきし』(1962年発行)は、世界中で愛されてきた絵本です。
私自身も子供のころにくり返し読みました。
2015年改訂版には、新たな発見や研究の成果が反映されています。
それを作るお手伝いができたのは、とてもうれしいことでした。
絵本の変化を通して、みなさんも「新しく発見されたこと」に気づくでしょう。
気になる「発見のはなし」を見つけたら、くわしく書かれた本を読んでみてください。
絵本見比べポイント1 惑星の数がへったわけ

旧:太陽の家族にあたる、九つの惑星のひとつで
↓
(2006年の国際会議で惑星の定義が決定)
新: 太陽の家族にあたる、8つの惑星のひとつで
大昔から知られていた惑星は、夜空で目で見ることのできるほど明るい水星・金星・火星・木星・土星の5つだけでした。
天体望遠鏡の発明により、土星より遠い場所ある4つの天体が発見され、太陽系の惑星は9つとなりました。
その後も科学技術の進歩により、海王星より遠い場所で、太陽の周りを回る天体が発見されましたが、発見された天体を惑星にいれていくと、惑星の数がどんどん増えてしまいます。
そこで、2006年の国際会議で太陽系の惑星の定義が決定し、冥王星は準惑星とよばれるグループに入ることになりました。
太陽系の惑星のなかでも、冥王星は特に小さい天体でした。
地球をりんごくらいの大きさにすると、冥王星はビー玉ほどの大きさです。
2003年に発見されたエリスは冥王星よりも大きい天体でした。
冥王星が惑星なら、エリスも惑星になるのではといわれたましたが、結局はどちらも準惑星になったのです。
絵本見比べポイント2 生物がいた最古の記録

旧:このころの地球には、もう生物がいたと考えられています。が、しょうこはほとんどありません。
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(2016年―17年に発見報告)
新:このころの地球に生物がいたことを、岩のなかにのこされた小さな細胞や微生物の化石がおしえてくれます。
約40億年前に原始の海が地球に誕生し、その中でやがて最初の生命が生まれたとされています。
その後、シアノバクテリアという微生物(光合成細菌)が二酸化炭素から有機物を合成し、酸素を発生させるようになり、地球の大気と気候は大きく変化したと考えられています。
2016年に、グリーンランドの約37億年前の地層から、世界最古とされるシアノバクテリアの化石の発見が報告されました。
さらに2017年には、カナダ・ケベック州の溶岩の中から、鉄分を含む微細な構造が検出されたことが報告されました。
約42億年前に形成された可能性があり、この構造が鉄を食べるバクテリアによるものであれば、最古の記録更新となります。
シアノバクテリアが層状に堆積してできた溶岩をストロマトライトと呼びます。
グリーンランドで見つかった最古のストロマトライト化石は、万年雪が溶けたことで発見されました。
また、オーストラリアのシャーク湾では、現在もストロマトライトが生成されていて、約50cmのドーム状のものが見られます。
絵本見比べポイント3 古生代(ペルム紀)末の大量絶滅

旧:地上のいきものの歴史で、これはたいへんな危機でした。生物は、この時代を生きのびるために、形や生きかたを変えました。
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新:この時代のおわりに、危機がおとずれました。火山の活動が活発になりました。そのせいで、太陽の光と熱がさえぎられ、地球全体がさむくなり、大量絶滅が起こったのです。
約2億5200万年前のペルム紀に玄武岩マグマの大噴火があったと考えられています。
噴火によって大気中には大量の二酸化炭素、メタンガスが放出されました。
噴火の灰じんにより太陽の光と熱がさえぎられ、地球はまず寒冷化、それに続いてメタンガスの影響により急激に温暖化したと考えられています。
海洋では、無酸素状態が引き起こされたことでしょう。
そのような激しい環境変化によって、全生物で90%以上が絶滅してしまったのではないかと考えられています。
いまから約3億年前、地球は今とは全く違う大陸の形をしていました。
北アメリカはもとは孤立した島大陸でしたが、後にゴンドワナ大陸と合併し、ペルム紀には、超大陸パンゲアができあがりました。
地球の表面は板状(プレート)になっていて、これが動くことで大陸の形や大きさが変わったり、火山の噴火や地震が起こったりすると考えられています。
絵本見比べポイント4 なぜ恐竜は絶滅したか

旧:勢いをふるっていたはちゅう類は、ひとつひとつ死にたえて、ぶたいからきえていきました。
↓
(2010年クレーター発見)
新:白亜紀のさいごの日に、直径やく10キロメートルの小天体が、地球にぶつかりました。この大衝突のあと、地球はさむくなり、恐竜たちは死にたえてしまいました。
三畳紀・ジュラ紀・白亜紀と2億年近く続いた中生代が、約6600万年前に終わりました。
火山活動によって寒冷化が進む中、大きくなりすぎた恐竜たちが、ゆるやかな環境変化に適応できずに絶滅していった、とかつては考えられていました。
現在では、その最大の原因はいん石が地球にぶつかったこと、それにともなう環境変化の影響を受けたのは生態系全体だったこと、そして恐竜は完全に絶滅したのではなく、一部は鳥類として現在も存続し、進化を続けていることなどが明らかになっています。
恐竜絶滅の原因が明らかになった理由のひとつに、当時の地層からイリジウムという元素が発見されたことがあります。
イリジウムは、火山のふん火のように地球内部からもたらされることもありますが、ほとんどはいん石などによって地球外からもたらされる物質です。
ユカタン半島で発見されたクレーターも、いん石が地球にぶつかったことを裏付けています。
また、いん石がぶつかったときに死んだと考えられる魚の骨の内部構造から、その時期が春から初夏だったらしいという研究が2022年3月に発表されました。
本来なら暖かくなるはずの季節に急に寒くなってしまった北半球では、南半球よりも生態系への影響が深刻だったのではないかと考えられています。
コラム1 第6の大量絶滅

過去6億年の間に、5回の大量絶滅があったことが知られています。
大量絶滅とは、ある定義によれば、約200万年以内に生態系の75%以上の種が絶滅してしまう現象をさします。
直近の第5回目の大量絶滅が起こったのは、鳥類以外の恐竜が絶滅した白亜紀末です。
そして現在起きている地球温暖化と環境破壊による生体多様性の低下を多くの研究者は第6の大量絶滅として、警告しています。
恐竜の絶滅は、急激な環境変化が生態系を激変させることを教えてくれます。
いん石がぶつかるその時まで、地球環境にもっとも適応していたのは恐竜でした。
私たちの祖先であるほ乳類は食べられる側で、体も小さく生態系のなかではわき役のような存在にすぎなかったのです。
恐竜の絶滅によって、ほ乳類が地上で存在感を増すようになりました。
前回は恐竜でしたが、第6の大量絶滅が起きた時、いちばん影響をうけるのはいったいどの生物なのでしょうか。
絵本見比べポイント5 は虫類・恐竜・鳥類の進化のつながり

旧:また、あるはちゅう類は空中をとぶようになり、べつに鳥類もうまれていました。
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(1996年羽毛恐竜発見)
新:恐竜のなかから、空をとべるようになったものがでてきて、最初の鳥類が登場しました。
ペルム紀の大量絶滅のあと、中生代・三畳紀になると、は虫類から恐竜が出現します。
恐竜と他のは虫類は骨ばんに大きなちがいがあります。
恐竜以外のは虫類は骨ばんから横に足がのびているため、ガニまたで体全体を左右にくねらせて歩きます。
一方、恐竜は骨ばんに大きな穴があいており、足がまっすぐ下にのびているため、後ろ足だけを前後にふって素早く歩くことができます。
そして鳥類もまた、恐竜と同じく骨ばんに大きな穴があいているところなどに、恐竜との進化のつながりがあります。
小型な肉食恐竜の中から鳥類が進化してきたことが確実視されています。
1996年以降、羽毛の生えた恐竜が続々と発見されてきました。
現存する動物の中で羽毛があるのは鳥類のみであり、羽毛の起源は恐竜にさかのぼると考えられるようになりました。
しかし、2022年4月、羽毛の生えた翼竜の化石が発見されました。
翼竜は恐竜に分類されませんが、羽毛の起源は翼竜と恐竜の枝分かれ前までさかのぼる可能性が高くなりました。
コラム2 恐竜から鳥類への進化

恐竜の羽毛化石から、最初の羽毛はフリースのような短い単純な形をしていたということがわかってきました。
ウロコではなく羽毛で体をおおうことによって、ダウンジャケットのように、防寒効果があったはずです。
は虫類は外温動物、鳥類は内温動物です。
恐竜は、は虫類と同じく外温動物だと考えられていましたが、最近、羽毛の存在から、恐竜の段階ですでに内温動物に進化していたと考えられるようになりました。
鳥類に近づくにつれつばさも進化していたことが分かると、どこまでが恐竜でどこからが鳥類なのか、簡単にその境界を引けないほど、連続的な進化があったことが明らかになりました。
生きものが動くためには熱が必要です。自分で熱を作り出すことのできる生きものを内温動物、作り出せないものを外温動物と呼びます。
カエルや魚、ヘビなどは虫類は外温動物で、まわりがあたたかくないと動くことはできません、
一方、イヌやネコ、ヒトなどのほ乳類は内温動物で、自分で熱を作り出すことができるため、暑い日も寒い日も、いつでも動くことができます。
絵本見比べポイント6 羽毛恐竜は何色だったのか

旧:とりになったきょうりゅうのはなし
↓
(2010年メラノソーム発見)
新: とりになったきょうりゅうのはなし 改訂版
ウロコや羽毛、そして骨の化石の多くが茶色や黒色で発見されます。
骨は白かったはずなので、化石になる過程で変色したと考えられます。
2009年までは、ほとんどの研究者が「色なんてわからない」と決めつけていました。
ところが2010年に羽毛の化石にメラノソームというけんび鏡サイズの構造があることがわかりました。
メラノソームはメラニン色素に関連した構造で、その形と密度を現在いきている鳥類のものと比べることで、恐竜の羽毛の色が推定できるようになりました。
メラノソームは電子けんび鏡を使って羽毛を高倍率で拡大すると観察できます。
メラノソームには、様々な形があり、その形と密度によって羽毛の色が決まります。
丸は赤や茶色、細長いのは密度が高いと黒、低くなるにつれてグレー、白色となります。
この手法を使って復元すると、「とりになったきょうりゅうのはなし」にあるシノサウロプテリクス(8-9ページ)のしっぽは茶色と白のしま模様だった確率が高いことがわかったのです。
クジャクの羽のように、本来は白い羽毛が光の当たり方によってにじ色に見えたりすることがありますが、これを構造色といいます。
ミクロラプトル(12-13ページ)の黒い色も、構造色によってもっと色あざやかに見えていたかもしれません。
おわりに

私は講演会のときには、最近発見された新種の恐竜のことや、新しい論文の中から重要なものを選んで解説するようにしています。
以前に私の講演を聞いたことのある方にも、毎回、新しい部分があるようにしたいからです。
図鑑や教科書が書き換えられるようなことにワクワクしてくれるこどもたちもたくさんいるのですが、中にはせっかく本を買って勉強したのに・・・とがっかりする人や、過去の研究がいい加減だったと怒りだす人もいます。
そんな時、私は「どの研究も、その時のベストを尽くしていたと思います」とお伝えします。
世界中の研究者たちが、世代を超えて、みんなで一歩一歩真実に近づこうとしているのです。
図書館の書庫には、過去の本がたくさん収められています。
古い知識だから、もう役に立たないのでしょうか?
いいえ。
新しい研究が古い研究よりも正しいとは限りません。
そして、何かどのように変わったかを知ることによって、そこからあたらしい視点や、発想が生まれるかもしれません。
そうすれば、過去は未来につながります。
その繰り返しが知識の蓄積になり、さまざまな研究が進展してきたのです。
私たちも恐竜の研究も、過去の知識に積み重なることで、未来につながってもらいたいと思っています。
2022年7月
真鍋 真(国立科学博物館 副館長)
企画展の様子
1F屋内広場








2F企画展示コーナー










